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「ひかり」(クリスマスのおはなし)

 演奏会を終えた彼女が道の向こうから手をふり、僕は軽く手を上げてこたえた。
 僕を見つけたとき、彼女の瞳はすこし大きくなる。キラキラとしたその一瞬を見逃したくない僕は、誰よりも彼女の姿を見つけるのが得意だと思う。
「おなかペコペコだよ~」
 バイオリンケースを下げ、ゆるい癖毛の髪をアップにした美しい僕の幼なじみは、会うなり空腹を訴えた。大人びた姿に見とれていた僕は、いつもと変わらぬ彼女の言動にくすりと笑いがこぼれる。
 空いた手を僕の腕にするりと滑り込ませ「ごはん、早く行こ?」と促す彼女。ディナーの予約時間にはまだ早いから、二人で街のイルミネーションを楽しもうと思っていたのだけれど。
「あ……」 
 小さく彼女は呟き、足を止めた。
 視線の先には、 ゆかしい店構えの小さな楽器店があった。きらびやかなブランドショップの狭間にあっても、たち消えぬ存在感。そのショーウィンドウには、ピカピカに磨かれた管楽器や弦楽器が並んでいる。
 唐突に、過去の景色が僕の頭をよぎった。
「子供の頃、読んでもらった犬と猫のはなし、覚えてる? 路地裏に棲む灰色猫と、黒い犬の……」
「クリスマス会のでしょ? あれって、最後二匹はどうなったんだっけ」
 彼女が首をひねる。朧気な記憶に、穏やかな猫の瞳が浮かんだ。
「お話のなかに、こんな楽器屋さんがあったよね? 私も今、思い出してたとこ」
「……うん」
 同じ日の記憶を持つことが、同じ風景を一緒に思い出せたことが、すごく嬉しかった。
 不仲な両親が僕を置いたまま、家に帰ってこなかったあの日。華やかなホームパーティーを抜け出して、君が僕を小さな児童館のクリスマス会に連れ出してくれたあの夜。
 館長さんが子供たちに読み聞かせてくれた物語は、優しくて、少しさみしくて、でも穏やかで。それは静かに僕の心に沁みたのだった。あれは、なんという物語だったのだろう。

 少しの静寂のあと、「クリスマスおめでとう」と彼女が言った。 白い息が、その場に留まる。
「……ありがとう」
 出てしまった言葉にハッとして、手を口に当てる。彼女は笑って「おめでとう、でしょー」と組んだままの腕で僕を小突いた。

 We wish you a merry Christmas,
 We wish you a merry Christmas……
 白い衣装の子供たちが、歌を歌いながらイルミネーションのなかに溶けてゆく。
「And a happy New Year」
 子供たちに合わせて口ずさむと、彼女も歌っていた。

 こんなにも祝福に包まれた街は、望めばきっと誰にでも光を分けてくれるのだろう。
 たとえ光の届かないような路地裏にいたとしても、きっと。



おわり


***

このあいだ、福岡の創作イベントCollageEventAde7に、委託参加をしたのですが、そのときに酔庫堂さんが作られた猫本とゆう、猫だらけの本に参加しましたのです。


adeスタッフさま、酔庫堂の七歩さま、その節は大変お世話になりました。
送った作品をとてもよくしてもらって、本当に嬉しかったです・・・!

そんなイベント参加レポを書きたいなと思いつつ、クリスマスがきてしまいそうなので、先にクリスマスのお話を書きました。

実はですね、猫本に参加されていた凪野基さんが企画されていたクリスマスカード本プレゼントに当選いたしまして、すてきなクリスマスのご本をいただいたのです。
そのご本は、Adeさんのイベント当日企画「くじ引きツリー」にプレゼントとしてご用意したもので、凪野さんが猫本に書かれたお話「Breath」とつながってるお話でした。
クリスマスカード本を読ませていただき、猫本と合わせてすごくすてきで、「クリスマス会でそのお話を朗読してもらった子供たち」のお話が自然と思い浮かんだのでした。
すてきなクリスマスプレゼントをありがとうございましたっ。

ほんとうは感想を書くのが良いと思うのだけど、感想ってとっても苦手なので・・・いつも感想ではなく読み終えたあとに思い浮かんだこと、とかになっちゃうです。すみませぬ。
ちなみに、猫本を読み終えたあとの感想的つぶやきはこれでしたっ。


なんだこれは・・・。

そうだ猫本!!
残部が、1月に開催される京都の文学フリマの酔庫堂さんのスペースで頒布されるそうです。
気になったひとはぜひぜひ!
わたしも、女子高生二人と猫っぽいお話で参加してますです。
「先輩と猫」とゆうお話です。


***
そうそう、レポは書けてないけど・・・Adeさんのお品書きはこれでした。

たくさんの方に手に取っていただき、空想のまちアンソロジーは送付分完売、クマの豆本製造ラインは見本誌まで買っていただけたのでしたっ。うれしいな♪


そんなこんなでみなさま、よいクリスマスを!

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くまっこにっき?

ここは前まで「クマザサ秘密通路」っていうブログだったんだけど、くまっこちゃんが乗っ取りました!
なので、くまっこが日々の恥ずかしいあれやこれやどれやをちまちま載せていく日記になったんだ。
物語とかイラストとか日記とかケーキとか載せていくから、仲良くしてね。

熊についてだよ。

くまっこ

Author:くまっこ
イラストレーターと見せかけて、ただのラクガキ熊。
楽譜の裏と100円ボールペンがお仕事道具。
72色入り298円のクレヨンが宝物。
(よく数えてみたら71色しかなかった。※同じ色が2本入ってた)

くまっこあるばむ。

いまこんなかんじ。

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