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先輩と猫

 初めて先輩の部屋に行ったのは、北風の強く吹く秋の日だった。
 部室に来るなり発された「鍋やるひと!」という先輩の声に抗えず、私はテキストファイルを閉じる。ノートPCを職員室に返して廊下に出ると、すでに靴を履いた先輩が下駄箱前で待っていた。
「スーパー寄ってこ?」
 すらりと長い手をセーターに半分隠し手招きをする姿が、昇降口に射し込む夕日の橙色と相俟って、綺麗だなあと思う。同じ制服を着ているのに、私とは別の世界のひとみたいだ。
 私はかじかむ手をこすりながら、先輩と二人、放課後の校舎をあとにした。
 先輩は三年生、私は一年生。私の所属する文芸部には、もうこの二人しか部員が残っていない。二年生は元々おらず、一年で入部したのは私だけ。他の三年は受験のため引退し、今年度での廃部が決まっていた。

 スーパーの袋を下げて、堤防を歩く。
 風よけのない土手には木枯らしが吹き荒れ、いくら手に息を吹きかけても暖まる気配がない。手の感覚がなくなり始めた私に、先輩が手袋を片方差し出した。
「手を繋げばあったかいよ。手袋は半分こね」
 受け取った手袋を左手にはめると、先輩は私の右手を取って指を絡める。体温が指の間から伝わって、じんじんと指先に響いた。

      *

 1DKのアパート、それが先輩の住まいだった。一人暮らしだと言うことを、はじめて知る。家族については気が引けて聞けなかった。
 置いてある家具はソファとテーブルと勉強机だけ。さっぱりとした部屋に、丸いふかふかのラグが心地良い。
「準備するから、座ってて」
 テーブルに電気コンロを用意して、昆布の浮かぶ土鍋を置く。思いのほか野菜の値段が高くて、湯豆腐にしようとスーパーで決めた。
 テーブルに置かれた薬味と鰹節を取ろうとして、ふと、人数よりひとつ多い小皿に目が行った。三つ目の小皿には鰹節だけが分けて入れてあり、先輩は何の気なしに、それを床に置いた。
「先輩、それは……?」
 尋ねる私に、先輩は手を口に当てて耳打ちする。
「あのね、うち、猫がいるの」
「えっ」
 まるで猫のいる気配がなかったから、驚いて声を上げてしまった。思わず部屋を見渡す私に、先輩は耳元でもう一度囁く。
「――幽霊なの」
 ……猫の幽霊。そんなものが、この部屋に?
 曰く、夜に走り回る音や鳴き声が聞こえたり、いつの間にか猫の通れる隙間だけ扉が開いていたりするらしい。
 そういえば玄関に盛り塩があった。聞けば霊が清らかでいるために置いているのだとか。祓うなどという気はないようだった。
 おかしな話だとは思ったけれど、先輩が話す言葉はごく自然で、不思議と怪しいとか、不快に思うことはなかった。
 その日の夜帰る頃になっても、私が猫の気配を感じ取ることはできなかったけれど。

      *

 あの日以来、先輩は部室に顔を見せなくなり、私は文芸雑誌への投稿作執筆のため、ずっと部室を一人で使っていた。
 いつだって唐突な先輩だったから、そのうちまた来るだろうと思ううち、いつしか季節は過ぎ、三月を迎えていた。

 卒業式の日。
 在校生として式に出席した私は、校庭で見送る卒業生のなかに先輩を見つけることができなかった。
 顧問の先生に聞くと、先輩は卒業を待たずに、引っ越してしまったという。
「猫は、一緒に連れて行けたのかな……」
 美しくて気まぐれで、いつの間にかいなくなってしまうなんて、先輩のほうが猫みたいだ。
「あ、そーだ。部室、片付けとけよー。欲しいものあったら、持ち帰っていいから」
 先生が言い残して去ってゆく。春休み中には別の部に部室が引き渡されるのだろう。
 部室のロッカーに歴代の部誌が積まれているのを思い出して、私は部室棟へ足を向ける。
 青い空、桜の蕾、明るく響く声、別れを惜しむ涙。
 春になりきれていない風が校庭を撫で、校舎のあいだを冷たく渡る。思わずブレザーのポケットへ手を差し入れると、手袋が私の左手に触れた。
 あの日持ち帰ってしまったままの。気まぐれな先輩がいつ現れても返せるようにと、ポケットに入れっぱなしの。
 片割れと遠く離れてしまった手袋は、それでもふわふわと子猫のように温かかった。


おわり
***
12月に参加した「猫本(にゃんぽん)」へ寄稿させていただいたお話です。

猫が出てきているのかどうか…読者さまの見た風景にゆだねたいと思いますっ。

ちなみに猫のゆうれいは、わたしのお友だちのお家にいたとか、いないとか…。

猫の日なので、載せてみました♪

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Appendix

くまっこにっき?

ここは前まで「クマザサ秘密通路」っていうブログだったんだけど、くまっこちゃんが乗っ取りました!
なので、くまっこが日々の恥ずかしいあれやこれやどれやをちまちま載せていく日記になったんだ。
物語とかイラストとか日記とかケーキとか載せていくから、仲良くしてね。

熊についてだよ。

くまっこ

Author:くまっこ
イラストレーターと見せかけて、ただのラクガキ熊。
楽譜の裏と100円ボールペンがお仕事道具。
72色入り298円のクレヨンが宝物。
(よく数えてみたら71色しかなかった。※同じ色が2本入ってた)

くまっこあるばむ。

いまこんなかんじ。

ついったなう。

お手紙ほしいよ!

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